わけわからなかった死の怖さの話

時々思い出す昔の一瞬の出来事。
急に恐ろしいほど、死が怖くなったことがある。今まで体験したことのない、凄まじい恐ろしさだった。これは誇張表現などではない。突然襲ってきた怖さだった。別に何かしていたわけでもない。ぼーっとしていたが、何か考えていたわけでもない。ただ誰もいない和室に横になっていただけ。
とある昼下がり、窓側に立て掛けてある折りたたみ式机の方を向いて何も考えず寝そべっていたらそんな気持ちになった。死にたくない。死ぬのが怖い。そう思った。突拍子もなくて戸惑った。何でこんな気持ちになってるのかわからなかった。ただ死ぬのが怖かった。それまでそんなことを深く考えなかったし、むしろ死ぬのが嫌という気持ちと逆のことを考えることの方がが多かった。どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず起き上がってみた。意味もなくキョロキョロとあたりを見回してみた。怖さは消えることなく、そこにあった。まばたきが怖かった。目を閉じるのが怖かった。目を見開いて、私は誰かのいるリビングへ向かった。母がいた。母を見ても怖さは消えることはなかった。話す気にもなれないので、話しかけられても曖昧な返事しか返さず、黙って座った。


後のことは覚えてない。あの怖さが来る前に何をしていたかも覚えてない。その出来事の恐ろしさだけ覚えている。あんな体験はそれ一度きり。
この出来事がいつ起こったのかが曖昧だ。5年以上前だった気もするし、1年前だった気もする。
あの時の気持ちは、なぜか死にたくなる時の気持ちに似ている。あの時のことは、死ぬことを意識した時に思い出される。